編集会議は土曜日に(2008年5月)|青の輪郭 #14
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この連載「青の輪郭」について詳しくは下記をご参照ください。
【これまでの連載】
#0|プロローグ
出発地点として借りたのは、東池袋駅徒歩1分の雑居ビル。
[高校編]
▼第1章 バイバイ、マイ・チャイルドフッド
#1|You Know You’re Right
高校1年の春、16歳。毎月のように変わっていく世界の見取り図。
#2|幻のツーベース
野球を愛する者だけの間で交換される感情と経験。
#3|図書館の森、リノリウムの木漏れ日
読書への目覚め、ある一冊との衝撃的な出会い。
▼第2章 スローカーブが描く憂鬱
#4|アルトサックスと坂口安吾
本気で何かに打ち込める残りの期間を数えながら。
#5|替え玉さまよ、永遠に!
練習後のラーメンがぼくらに教えてくれたこと。
#6|避難小屋としての読書
本の中のハイパーリンクを片っ端から踏みまくる。
#7|10月にマウンドでぼくは誰かに話しかけたかった
本と野球、この2つが自分の中で空中分解しそうな矢先に。
#8|青い炎
堕落せよ、堕落せよ──ひとりぼっちのトレーニングルームで。
▼第3章 きみの名前
#9|太宰治とゲームボーイ
予備校通いの始まりとともに訪れた、初めての感情。
#10|ワイルドカードの名は、東京
漠然と決めかけていた進路、この世界の永遠。
[大学編]
#11|青は、はじまりの色(2008年10月)
上京を経て時は移ろい、大学3年。世界と遊ぶ文芸誌『界遊』、はじまりの“編集会議”。
#12|夜明け前のゴロワーズ(2006年12月)
ある映画監督からの突然の電話。仲間と向かった渋谷での一夜の出来事。
#13|名前をつけてやる(2008年3月)
古見と2人、「文学に閉じこもらない」文芸誌にぴったりな名前を探して。
編集会議は土曜日に(2008年5月)
「すいませーん! こっちガパオ2つと、カオマンガイ2つ。あとパッシイユとパッタイ1つずつね。あとは……あれ、古見、お前どうすんの? まだ決まってないの?」
「急かすなよ、えっと。んー、いいや、ガパオで」
「すみません、あとガパオ1つ追加。都合3つね!」
土曜の夕方でもティーヌン市ヶ谷店は混み合っていて、その喧噪をかき分け顔なじみとなった店員にオーダーを通す。案内された窓際の席は、今まさに沈もうとする夕日が浅い角度で差し込み、オレンジに染められていた。これまで映団協の幹部連中と足繁く通ったこの店に、最近では新しく集った仲間たちと来ることが多くなった。
タータンチェックのクロスの敷かれたテーブル、その隅に置かれた箱から箸を取り出し、みんなに回す。同じ場所に違う人たちといるのは、別の世界線に来てしまったような高揚感がある。園さんの家に呼ばれてゴロワーズを拝借したあの夜から、まだ数ヶ月しかたっていないことが信じられない。
雑誌の名前が決まったあと、懸案事項は2つ残っていた。
それをともにつくる仲間と、資金をどうするかだ。
雑誌のつくり方としてぼくが参照できるのは山中くんの立ち上げた『DVU』のケースだけだったから、今回もその同人誌方式でつくることにしようと思っている。何人かの仲間を募り、印刷代などの制作費を折半する。そうなると、仲間というのはとどのつまり、人足と資金そのもののことであって、雑誌づくりに先立ってクリアすべき最重要課題になる。
ぼくと古見は手分けして、それぞれ本好きな友人に自分たちの計画を話すことにした。みんな4年生になっているから、かなり苦戦するだろう。そうだとして、いずれにしてもぼくらにできるのは、自分たちがなぜいま雑誌をつくる必要があるのかを、思い入れたっぷりに語ることだけだった。とれる武器はそれしかない。
予想に反して、最初に古見が声をかけた飯山は「え、それめっちゃおもろそうじゃん! やろうやろう」とすぐに参加を決めてくれた。2年次から小説の実作を行う文芸コースのゼミを選んでいた飯山は、古見と語学のクラスが一緒で、本の話ができて馬の合う数少ない友人らしい。
ぼく自身はそれまであまり深い交流がなかったけれど、学祭などでライブ企画や音響・照明の設備を担当する舞台技術研究会(通称:ブギ研)に所属していた彼は、知らない顔ではない。いきなり頼もしいやつが来てくれて幸先いいなあとほころんでいると、そこから芋づる方式でどんどんメンバーが集い、あっというまに男子4人女子3人のチームが編成された。