青の輪郭|#5|替え玉さまよ、永遠に!

練習後のラーメンがぼくらに教えてくれたこと。
武田俊 2022.11.12
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  • この連載「青の輪郭」について詳しくは下記をご参照ください。

【これまでの連載】

0話|プロローグ
出発地点として借りたのは、東池袋駅徒歩1分の雑居ビル。

▼第1章 バイバイ、マイ・チャイルドフッド
1話|You Know You’re Right
高校1年の春、16歳。毎月のように変わっていく世界の見取り図。

2話|幻のツーベース
野球を愛する者だけの間で交換される感情と経験。

3話|図書館の森、リノリウムの木漏れ日
読書への目覚め、ある一冊との衝撃的な出会い。

▼第2章 スローカーブが描く憂鬱
4話|アルトサックスと坂口安吾
本気で何かに打ち込める残りの期間を数えながら。

***

5 替え玉さまよ、永遠に!

 2003年。
 高校野球部でのデビュー戦出場は、バッテリーを組む大井に次いで2人目だった。1年生にしては早い5月だった。初夏、雲ひとつない完璧な青空。午後からの練習のためにやってきたサッカー部やアメフト部が、ぼくたちが朝早くからトスバッティング用のネットを20枚ほど並べてつくった仮設のレフトフェンスの裏側で試合を眺めていた。
 8番ライトでオーダーされていた。
 少年野球で下手な選手が当てはめられるライパチくんだ、と思って力が抜けたのがよかったのか、最初の打席で思い切りよく振ったバットが三遊間にライナーを打ち払った。高校初安打。その次は、ゆっくりと見逃してフォアボール。2出塁。いいぞいいぞ、ライパチくん! 
 第3打席だった。
 レフトスタンドでは、サッカー部やアメフト部の同級生たちがこっちを見ている。
 この時期に1年生が試合に出ていることのめずらしさが、よくわかっているようだった。同い年というゆるやかな連帯から生まれるその小さな熱量が、90メートルの距離を越えて、ネクストバッターズサークルで出番を待っているぼくに届けられていた。グリップを握る手が、少し熱い。
 左投手の投げたスローカーブだった。

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