武田俊の読むラジオ|#54 2024年振り返り

人生ではじめてだらけの年でした
武田俊 2024.12.30
誰でも

2023年の10月末にはじめての子どもが生まれ、てんやわんやのうちの年が明けてはじまった2024年は、今まで体験したことのないことだらけの1年間でした。一方で、成人してからもっとも労働や制作から遠ざかった1年でもあって、なかなか自分が社会の中でパフォーマンスを発揮できていないもどかしさもありました。

例年なら月別に振り返って、その月やったこと、出かけたこと、公開された仕事などまとめていたんですが、今年はもはや記憶が全然たしかじゃない……上に、ちゃんと振り返りながらこれを書く時間もない……!(現在イオはお昼寝中)という感じなので、ぱっと思い出せることだけ書きます。

妻の妊娠中に書いたエッセイがよく読まれた

子どもが生まれたらきっと怒涛の日々だから、いまのよろこびや不安なんてすぐ忘れてしまうだろうな。そうと思って妻の妊娠中から書いていたエッセイ「はじめて子を持つぼく(たち)のための覚書」が、たいへんよく読まれました。

子育て中の友人・知人はもちろん、子どものいない方からも「おぼえがき、読んでます!」とDMがたくさん届き、その多くが女性でした。Web上でいろんなものを書いてきましたが、これは今までにないことでありがたかったです。

そしてずっと書いてきた『青の輪郭』は、いったん置くことになり(子育てをしながら過去の仕事や苦しかった時期のことを振り返り私小説的に執筆することが難しかった)、育児を起点とした本を新たに書く、ということになりました。トリガーとなってくれたのが、思いつきで書いたこの数本のエッセイだったんです。ほんと思いついたら、その時にやってみるものですね。

ぼくはあたらしいプロジェクトがはじまったら、まずコードネーム的にタイトルのをつけてから着手するですが、めずらしくこの本のタイトルはまだ決まっていません。「あたらしい本」ととりあえず呼んでいるこの本を、来年早めにみなさんにお届けできるようがんばっています。

本に感謝するpodcast「BOOKS CALLING」をはじめた

BOOKS CALLING」がスタートしたのは、とても大きな出来事でした。今ではpodcastの相方となったひろたさんと国立のロージナ茶房という喫茶店で休日の午後、ノンアルで4時間以上話し込んだ結果生まれた番組ですが、今日までに18回配信。毎月の収録がなによりの楽しみで、「今月はどんな本に感謝しよっかな?」と考えながら過ごすのは、なかなかいいものです。

批評でもリコメンドでもなく感謝。

最初は「なんかちょっとスピ感が……笑」とか思っていたのもすぐに慣れ、ひとことでいえない深いアクションだなと日々感じています。その力を一言でいおうとすると、スピリチュアルな発言になってしまうんだな、ということにも気づきました。一言でいったり、簡単に伝えたり理解しようとすると、だいたいろくなことにならないものですね。

資本主義のひずみをなんとかできないか、というところからバズワードになったのが贈与経済ですが、ポトラッチがある種の暴力に発展する例もあるわけで、個人的にはぜんぜんヘルシーじゃないなあと。完全に見返りを求めない贈与っていうのも、なんだか難しそうで、そんな時にクリティカルになるのが感謝なのかもしれない……。来年も感謝の問いを深めたいです。

番組的にもなにか発展があったらいいな、とか、個人的には本に感謝するための(本を大切に扱うための)ブランドというか、マーチャンダイジングができたらいいなと思ってるんですが、欲を出すと感謝に響くので、ゆったり楽しみながらやっていきたいところ。

平野紗季子さん『ショートケーキは背中から』の書評をPOPEYE Webに書いた

年末にうれしい仕事の依頼をもらって、ひさびさに「世界を保存するための祈り」というタイトルで書評を書きました。長期スパン前提の編集の仕事はさすがに無理だなと思っていたけど、執筆なら全然できることがこれでわかった。そのことに気がつくことができたのが、待望の平野さんの新刊だったことが、とてもうれしいです。写真は石田真澄さんによる撮り下ろしという、Webとは思えぬ大変豪華な1本になりました。

本の方の担当編集に報告したところ「すばらしかった!依頼を受けて書く文章にしかない光り方がある」とほめてもらったのが、なんだかすごくうれしかった。依頼原稿にしかない光り方をぼくはできるのか! というね。

大学で教えて6年経ちました

母校で「情報メディア演習」という、ゼミ方式でメディアと編集を実践的に教える講義を持って6年経ってました。これはあんまりいうと怒られるかもしれないけれど、非常勤講師という仕事は労働とフィー(金銭)のバランスだけでいったらもっともコスパの悪い仕事のひとつなのだけど、それを越えてあまりある豊かなリターンがあって、生きがいのひとつになっています。

未来のかたまりである学生というひとたち(母校なのでなお、かつてのぼくたちのように感じます)を前にして、自分の仕事から得た知識や技術を体系化し直してどう伝えられるのか。そして、非対称な関係だからこそ、どうやって真摯にかれらに向き合って、たのしく、仲良くできるのか。とても難しいですが、これはなんていうか「人生だ……」って感じの仕事です。

そしてうれしいことに夏に新しいオファーが届き、来年度から、もう一コマ講義を担当することになりました。「編集理論」という講義で、これはもっと実務的な編集について座学ベースで教えていくことになります。理論と実践。これで両輪になりそう。

リサーチや思考のプロセスの置き場所をつくった

これはつい昨日のことですが、日々リサーチしたり考えたりしたことの軌跡を「仮置き」できる場所をつくりました。

あえてWeb上に公開することで、自分を前のめりにしたいのと、時間がより有限になっている中で、自分のパフォーマンスをちゃん整えたいのが理由。ぼくはどうやら勢いと興味で仕事をするフェーズが終わったようなのです。

あと、これはmixi2がひとつのきっかけですが、好きだったインターネットを取り戻したい、という気持ちもあります。

***

2025年にやりたいこと

そろそろイオが起きてしまいそうなので、ざっくりと。

・本を必ず完成させる
打ち上げ花火じゃなく、長くじんわり読まれ、届けられる本にしたいです。独立系書店を中心にいろんなところでイベントをやって、これまでの恩を返したい気持ち。

・たくさん書く
まずは本が大事ですが、↑の平野さんのやつを書いて、執筆は全然できるんだなとわかりました。エッセイ、コラム、書評……なんでもたくさん書きたい。量を大切にしたい時期。いま人生ではじめて書くことが楽しいんです。オファーお待ちしてます!

・聞き手としての力の発揮
しゃべるのが好きですが、どうやらぼくの特性は聞き手としての立場になると、さらに良い形でブーストされるようです。与えられた特性を磨いてきたのだから、それはちゃんと使って鍛え続けたい。

イベント登壇、ラジオなどの仕事はぴったりなのでぜひ増やしたい。インタビュー取材、これを増やすのは少し大変だけど、これぞというものはやっていきたい。あとは、キャッチャーとして最良の壁打ち相手になる、というパッケージのようなものを考えています。試合に出る前のあなたのための、専属のブルペンキャッチャー、のようなイメージ。

・セルフパブリッシング
今年は久々に文学フリマに出かけて、色々思うことがありました。ぼくのキャリアは大学のときに仲間たちとつくっていた雑誌からはじまったわけで、もう一度原点回帰をしたいなあと。まずはずっと書いている「空中日記」を少部数でいいから、毎年本にしたいなあ、と思っています。

・少しずつ「編集」の再開
この1年、おもに休んでいたのは「編集」の仕事でした。特に新規のメディア立ち上げや、その中長期の運営については、いくつかご相談をいただくものの、育児もあって基本的に断りするしかなかった。

来年は少しずつ再開したい。ぼくが「編集長」として最前線で戦うというよりは、分散型でしなかやか新しいチームのあり方を考えています。

・──だけど、なによりも生活と子育て
なんで生活を形づくることって、仕事より優先度が低いことのように語られたり、感じられたりするのでしょうか。ぼくにとってはかなり謎です。生活こそ人生の最前線で、もっともクリエイティブなものなのでは。「おしゃれ」とか「ていねい」とかを越えた、生活のあり方、語られ方を表現していきたい。これは執筆とも深く関わってきますね。

ということで、来年もどうぞよろしくお願いいたします!

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