武田俊の読むラジオ|58 ひさしぶりに本をつくりました

入稿の緊張感、こんな感じだったな……
武田俊 2025.05.25
誰でも

お知らせしたいこともあって、ひさびさにレターを送ってみようと思います。前にお送りしたのが2月だったようで、そこからずいぶんとぼくの生活は変わりました。

大きいのは、今年度から大学で担当する講義がひとつ増えたこと。これまでは「情報メディア演習」という編集とメディアのあれこれをグループワークを通じた実践を通して学んでいく授業だけだったところ、新しく「編集理論」というのも担当することになったんですが、これ、ちょっと思い入れのある授業なんです。

遡ること18年ほど前。

仲間たちと一緒に雑誌をつくろう、と動き出したぼくたちは、実際雑誌づくりにどんな知識が必要なのかもわからないまま進めていました。そんな時に、相方の新見くんが見つけてきたのが「編集実務」という自由科目。レジュメを見てみるとなんでも編集者の先生が、本づくりにまつわるさまざまな技術や歴史を教えてくれるもののようでした。これは受けない理由がありません。

先生はどこかアライグマを思わせるようなチャーミングなおじさんで、本の歴史、天地ノド小口などの用語、印刷方法の種類、編集記号の使い方を教えてくれました。そして、これがどんないきさつだったか詳細はおぼろげなんですが、まもなく卒業し活動拠点の学校を失うというぼくたちに対して、神保町にあるという自分の事務所の合鍵を渡してくれたんです。

「土日ならぼくはいないし、自由にしていいんだよぉ。たばこ吸ったりお酒飲んだりしてもいいよぉ」

そう間延びした声で話しながら、ぼくの手の中にぽんと鍵を落としました。その感触はまだ覚えている。そしてぼくたちは先生の言いつけを守り、土曜の午前に神保町二郎の裏の路地に集まって、鍵を持っているぼくが到着すると雑居ビルの3Fの事務所に上がり込み、会議をし、煙草を吸い、わいわい騒いだりしていたのでした。

その先生が担当していた「編集実務」が時を経て「編集理論」という名前に変わり、とうとうお年ということもあって後任を検討した結果、ぼくにオファーが届けられたということだったんです。

ぼくへのオーダーは「武田くんなりの、編集観とその技術を理論的に教えてほしい」「情報メディア演習と対になる授業となったらうれしい」というもの。意図はよくわかりますが、さてどうしたものか。

メディア史とメディア論の勉強のし直しをはじめました。はじめてすぐ、これは終わりのない作業だということに気づきました。毎週の授業の用意に、ぼくの使える可処分時間の多くが必要で、これはなかなか苦しいことだけど、でも心地よくもある。思い出の中に現在がある、という感覚の中で、これまでの人類とメディアの関係を掘り下げていく。

2025年はそんな1年になりそうです。

久々に本をつくりブックフェアに出展します!

牛込柳町GALLERY KEKKAIで新たに開催されるブックフェア「TOKYO BOOK BODEGA」に、出展することになりました!


会場となるGALLERY KEKKAIを運営するフォトグラファーの堀哲平さんは雑誌づくりをはじめた学生時代に出会った先輩で、うれしいことにぼくの写真をたびたびほめてくれ、その勢いで今回はじめてフォトブックを完全自主制作でつくってみました。

このイベントが初売りになります。その他のも持っていけるものを持っていこうと思っています。お品書きはこんな感じになりそう。

・『Every scene is the Last scene』

今回の新作は、はじめてのフォトジンです。あるコンセプトで撮りためてきた写真たちを、はじめてまとめました。ステイトメント的なエッセイとともに。48P、フルカラー。

・『空中日記2019』

コロナ禍直前の日々を記した日記からいくつかをセレクト。高校時代につくっていた短歌に、現代からのアンサーソングを相聞歌のように組み合わせた短歌連作と合わせました。60P。

・『文の四文屋

西武新宿線、中央線の若者を支えてきた焼きとん屋・四文屋をこよなく愛するひとたちによる、非公式アンソロジー。武田は「梅割ごしに見ている」というエッセイを寄稿しました。

・『Daily behavior / 日々のしぐさ』

自作イラストを表紙に据え、日々のくらしを慈しむような日記、短編小説、連作短歌をまとめました。完全手製本のため、つくれたら持っていきます。

他のブースにもすてきな本がたくさん並びますし、ZINE制作のワークショップも。文学フリマなどの大型即売会もいいですが、小さなブックフェアではサクッとまわれるのはもちろん、出展者とおしゃべりしやすいのも魅力。ぜひ、武田ブースにおしゃべりしにいらしてください!

***

〈日時〉2025年5月31日(土)12:00-20:00入場無料
〈会場〉GALLERY KEKKAI
〒162-0063東京都新宿区市谷薬王寺町16−13リヒャルト市谷薬王寺 1F

〈出展者〉
inch magazine @inch.mag
武田俊 @stakeda
DAWN @dawn_tokyo
宮﨑希沙 @kisaaaaa
堀哲平 @memoryleak1981
LIFE HISTORY MIXTAPE @lifehistorymixtape
etc.

〈珈琲〉栞珈琲 @shiorikohi
主催:GALLERY KEKKAI @gallerykekkai

ZINE作りワークショップ「FANZINE WORKSHOP」
時間:13:00~
講師:宮﨑希沙
参加費:500円(税込)
東京のカレー屋さんを食べ歩いて毎年まとめた「curry note」など、数多くのZINEを作ってきたジンスタでグラフィック・デザイナーの宮﨑希沙さんが講師。ZINE作りがはじめての人でも、文章や写真をレイアウトして8Pの手作りZINEがその日に完成。初めの一歩を一緒に作れるワークショップを開催します!使いたい写真などの素材を持参いただくか、スマホ内の写真をその場でシールプリントも可能(1人3枚まで)。

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